平成29年度3月より、次世代のがん免疫療法として注目される「CAR遺伝子治療」の国内臨床試験が始まりました。
この臨床試験は既存の治療を行うことができない再発・難治急性リンパ性白血病患者を対象としており、全国6つの施設で実施されます。
今回は、現在世界中で盛んに研究が進められているCAR(キメラ抗原受容体)を用いる遺伝子療法について、その詳しい治療法や今後期待される展望をご紹介します。
CAR遺伝子治療とは?
CAR遺伝子治療とは、患者から採取したT細胞を遺伝子操作し、体外で培養したのちに再び患者の体内に戻すといった治療です。
CAR(Chimeric Antigen Receptor:キメラ抗原受容体)とはこの時T細胞に導入される受容体で、がん細胞に含まれるたんぱく質を認識してT細胞に情報を伝達するよう加工されています。
CARを加えたT細胞を患者の体内に戻すことで、HLAを介さずにがん細胞を攻撃することが可能となり、従来のがん免疫療法で課題とされてきたがん細胞の免疫逃避機構を打ち破ることが可能だとされています。
CAR遺伝子治療における課題
今年度の3月から平成32年3月にかけて行われるこの臨床試験の目標は、平成32年度の商業化を目標としたCAR遺伝子治療の安全性や有効性の評価です。
これまでに海外で行われた臨床試験では、急性リンパ性白血病の7~9割でほとんどのがん細胞が消失したとされているものの、その一方で重篤な副作用の報告もありました。
報告されている副作用は、血圧の低下や高熱、肺水腫など。そのため、この度の臨床試験では副作用を抑えるための薬剤も用いられます。
また、海外ではがん細胞以外の健康な細胞が攻撃されるという事例も確認されており、標的とするたんぱく質が健康な細胞で見つかった場合に備えて、より安全性を高めることが今後の課題です。
臨床現場への導入に向けた展望
CAR遺伝子治療が高い効果をもたらすのは、「CD19」というたんぱく質を含むがん細胞。急性リンパ性白血病を始めとするリンパ系の腫瘍です。今後さまざまながん治療に応用するためには、CARがその他のがん細胞が持つ別のたんぱく質を認識できるようにしなければなりません。
また、細胞を一度採取し、体外で培養して再び戻すという過程のため、一度の治療に非常に高額な費用がかかることが予想されます。臨床試験を通し、治療にかかる費用を削減するための見通しを立てることも求められるでしょう。
次世代のがん治療として、世界各国で研究が進められているCAR遺伝子治療。
いくつかの仮題は残るものの、既存の治療法では効果が得られない人々を救う手段としてさらなる研究と発展が期待されています。