妄想や幻覚、または感情の平板化や無気力といった症状を引き起こしてしまう“統合失調症”。およそ100人に1人がかかると言われるこの病気は、多くの人々を苦しめています。
そんな統合失調症の治療に使用する薬について、慶應義塾大学医学部の精神・神経科学教室の内田裕之専任講師と、北米・欧州・アジアの統合失調症研究の専門家が行った研究結果が発表されました。
今回は、この研究結果からわかる“抗精神病薬”の安全性や課題点についてご紹介いたします。
統合失調症の主な症状
統合失調症の目立った症状として知られるのは妄想や幻覚ですが、そのほかにもさまざまな症状が現れます。主な分類は、対外的に目立って見える“陽性症状”と、意欲の低下や自閉といったあまり目立たない“陰性症状”の2つ。
また、上記の2つの症状は、統合失調症の経過に合わせて現れるとされています。統合失調症の経過と、それぞれの時期に見られる症状は以下の通りです。
1.全兆期
集中力や気力の減退、過度な不安感や感覚過敏が起こる
2.急性期
妄想や幻覚、思考・感情・会話・行動の障害が生じる
3.急速期(消耗期)
急性期の症状が落ち着くと同時に意欲の低下などの陰性症状を招く
4.回復期
心身が安定し、対外的な活動に対する意欲が少しずつ現れ始める
抗精神病薬の作用と問題点
抗精神病薬は、主に急性期に見られる陽性症状の改善のために使用される薬剤です。
50年以上も前から統合失調症の治療に使用されており、脳内の神経伝達物質であるドーパミンの過剰な活動を抑えることで、妄想や幻覚といった症状に対処します。また中には、セロトニンに対して作用し、急速期に現れる陰性症状に対して効果を発揮するものも。
そんな抗精神病薬ですが、一部では「使用によって逆に症状の悪化が見られた」「脳の萎縮を引き起こした」という報告もあるのです。そこで、始めにご紹介した慶應義塾大学の専任講師らによって、抗精神病薬の治療効果や安全性について再検証がなされました。
2017年5月5日にアメリカ精神医学会が発行する『American Journal of Psychiatry』に掲載された研究結果では、抗精神病薬の使用が統合失調症の症状の改善や再発防止に有用であると改めて示されています。
しかし同時に、「一部の患者においては使用の中止や減量が適切な可能性もあること」「脳の萎縮に与える影響についてはさらなる調査の必要があること」も示されており、抗精神病薬の使用における今後の課題点と言えるでしょう。
統合失調症の症状を改善するうえで効果を発揮する抗精神病薬ですが、すべての患者に同様の効果が見られるわけではなく、逆に悪化させてしまう可能性もあるため、それぞれに合わせて治療法を変えていかなくてはなりません。
患者に合わせた治療法「テーラーメイド治療」の実現のためにも、抗精神病薬のさらなる研究が求められます。