労働安全衛生法により、常時50名以上の労働者を使用する事業者には産業医の選任が、常時1000名の労働者もしくは500名以上が有害業務に従事する事業者には専属の産業医の選任が義務付けられています。厚生労働省によると、産業医の研修修了者は9万人いるものの実働は3万人と推計され、産業医の選任義務がある事業所16万4千に対して不足していることが分かります。今回は、女性医師が産業医に転職するメリットについてご紹介します。
産業医の業務内容
基本的な業務内容
産業医の職務は労働安全衛生規則で定められており、産業医科大学では業務の一部を次のように紹介しています。
・職場巡視(月1回)
・作業環境による健康リスクの評価と改善
・健康教育、労働衛生教育
・衛生委員会への参加
・健康診断と事後措置
長時間労働者や高ストレス者への面談指導、休職や復職時の面談なども業務の一部です。
臨床とは異なる現場
臨床の現場とは異なり、会社勤めをしている健康な人に対して改善指導や必要に応じて医療機関を紹介するのが産業医の主な業務となります。企業と従業員の間に立つ中立的なポジションで、産業医は事業者に対して勧告権を持ちます。
産業医のメリット
短い拘束時間で高収入
女性医師の産業医勤務について人気があるのが、嘱託産業医という働き方です。
日本医師会のアンケートによると、嘱託産業医が1社との契約で得る報酬は3~6万円で、1ヶ月あたりの活動時間は約2時間です。(平成27年9月25日「産業医活動に対するアンケート調査の結果について」)医師のアルバイトの相場は時給1万円といわれ、その高額さで知られていますが、産業医の場合はそれを上回る金額です。
勤務時間は会社の就業時間内
産業医が会社を訪問するのは原則として会社の就業時間内です。健康診断などでまとまった人数を相手にする場合でも、日中に対応します。就業規則で決められた休日での業務も基本的には発生しませんので、しっかりと休みを取ることができます。
救急対応や夜勤勤務がない
病院勤務ではないため、残業はほぼありません。夜勤や当直、日勤と合わせて長時間勤務をすることはなく、オンコールもありません。急な対応や夜間の勤務がないため、必要に応じて家事や育児を優先させることができます。
これからの産業医に期待されること
健康診断後の保健指導に加えて健康上のリスクがある社員を洗い出し、人材面でのリスクを提示することは、今後、産業医に期待される業務のひとつになるでしょう。
長時間労働者や高ストレス者との面談はもちろんのこと、主治医との連携や就業上の助言など、今いる人材を活かすことができれば、企業にとって頼もしい存在となります。
産業医は従業員の健康管理をおこなうことで、企業の経営戦略や人事計画をサポートできるポジションにいます。全体的な傾向やリスクを判断し具体的な改善提案ができれば、産業医は健康面での人材マネジメントに関与することも可能です。
女性医師が産業医になる大きなメリットは、ライフワークバランスが構築しやすくなることです。厚生労働省によると、従業員500人以上の事業者における産業医の選任率は98.7%と非常に高いですが、その一方で産業医が不足しているといわれるのは、メンタル面でのサポートや企業経営に参画できるドクターが求められているからでしょう。医師不足が叫ばれる中、臨床医での常勤か辞めるかの二択ではなく、企業を支える従業員の健康を守るという立ち位置は、キャリアパスとして十分に検討に値するのではないでしょうか。