長時間労働や労働人口の減少が問題となっている近年、政府は労働時間の見直しや生産性向上のための人材確保を目指して“働き方改革”を推進しています。
それに伴い、過酷な労働環境による過重労働が問題となっている医療業界でも、日本医師会によって「医師の働き方検討委員会」が設置されました。
質の高い医療を提供しつつ、医師の働き方を改善するためにはどのような点を見直せばよいのでしょうか。
医師の過酷な労働環境
法で定められている労働時間は週40時間、一般的には、残業が月80時間を超えると過労死の認定ラインに達するといわれています。
2011年に労働政策研究・検収機構が調査したデータによると、勤務医師の1週間の平均労働時間は約53時間。全体の約4割が週60時間以上勤務しているという結果が出ています。
ひと月80時間の残業が過労死の認定ラインということは、週に20時間以上の勤務をしていれば過労死ラインに到達してしまうということ。つまり、この調査で週60時間以上勤務したと回答した約4割の勤務医は過労死の認定ラインをオーバーしているのです。
この労働時間は、先進国の医師の中でもトップクラス。さらに、2006年に国立保健医療科学院タイムスタディが行った調査では、20代~30代の若手医師はもちろんのこと、女性医師で50代手前、男性医師ではなんと60代前半まで過労死ラインをオーバーしているという結果が出ています。
過酷な労働が招く危険
上記のような長時間労働は、医師の業務遂行能力を低下させ、医療事故を引き起こす原因となります。また、医師の病院離れの要因となり、さらなる労働環境の悪化を招いてしまう恐れも。
しかし、患者への医療の提供だけではなく、調査や研究のための時間も必要とする医師の場合、一般の労働と同じように単純に労働時間を見直すことはできません。
また、高齢医師・女性医師の増加が予測される今後は、年代・性別ごとに適した労働環境の提供も求められます。
「医師の働き方検討委員会」の2つの改革
新たに設置された医師の働き方検討委員会は、医師の労働環境を見直すうえで重要なのは、「今できる働き方改革」「将来の働き方改革」の2つに分けて検討することだとしています。
今できる働き方改革では、各都道府県の「医療勤務環境改善支援センター」の活性化とさらなる認知を促すことを重要視し、将来の働き改革では、今できる働き方改革を成功させたうえで、医師という特殊な職業を考慮して独自の制度の導入を目指します。
過酷な労働環境が問題となる医療業界は、医師の働き方検討委員会の設置によって今後どのように変化していくのでしょうか。特殊な業種ゆえに、診療科目や地域ごとの差、女性・高齢医師や研修医といった年代や性別による身体的・環境的差などを考慮して、今後の制度を見直していくことが求められます。