子弟を医学部に行かせる方法はあるのか?
さて、子弟を医学部に行かせるための方法であるが、残念ながら一般的な方法などないに等しい。志望者個人の資質にもよるし、志望する大学にもよる。また、 推薦試験、一般入試、学士入試、編入試験、AO入試など選抜方法も色々ある。ここでは極普通に高校から受験をして医学部に入ることを考えると、一般入試か または推薦試験ということであろう。国公立の場合、一般・推薦(ほとんどの大学で評定平均4.3以上が条件となる)共にセンター試験が必要になることがほとんどで、オール・マイティな学力が要求される。合格には最低でも85%くらいの得点が必要である。私立の場合は一般的に英数理(理科は2科目)の4教科 受験が一般的で、推薦試験は、高校からの調査書プラス各大学独自の筆記試験や面接試験、小論文などが課される。この場合は高校の評定平均が4.0以上ある ことが条件になっていることが多く、また、指定校でないと受験できない大学もある(北里、聖マリアンナ、獨協医大など)。いわゆる穴場的受験方法は最近導入が増えつつある地域枠定員に応募することか。特に、地方大学や東京医大の茨城県枠、川崎医大の岡山県枠、中国・四国地区枠などが比較的倍率が低く狙い目ではある(もっとも、その地域の高校に在籍または卒業、その地域に親の住民票があることなど条件は狭い)。であるから、一般的には高校の成績を高く保ち、 欠席をせず、運動系の部活に入り、生徒会で活躍する。日常的には読書にいそしみ、長期の休暇は語学留学をして英会話を得意にし、センター試験で高得点を取 れる学力を付け、時々ボランティア活動に参加する。探求心が旺盛で、性格は温厚・外向的、友達は多い方が良く、幅広い年齢層の人とコミュニケーションが取れる、云々。どの親も自分の子弟がそんなマルチタレントな子だったら苦労はしない。
精神的な環境整備が医学部合格のカギとなる!
現実的には、環境整備から始めたい。学校選びである。医学部受験となると偏差値の高い中学・高校を選ぶのが常套で、理想的には灘や開成、桜蔭、国立大附属 あたりに通っていれば東大志願者や医学部志願者が多いから、自然に情報は入ってくるし、モティベーションも上がる。問題は中堅校の選択だろう。医学部進学者または志願の数の多い学校を選ぶのはもちろん、気を付けたいのは、評定平均の取りやすい学校を選ぶことである。豊島岡や白百合は女子校の中でも医学志願者が比較的多いが、評定は厳しく内申点を取りにくい。一方、桐蔭学園や桐朋、日大系列校、田園調布雙葉など評定が甘い高校もある。そして、カトリック系の学校は奉仕活動が盛んだから、調査書の内容、面接などでは有利だ。全寮制の秀明学園は医学部志願者の率が高く、評定も甘い(埼玉の僻地にあるので塾や予備 校を利用するのは困難)。などなど。では公立高校はどうかと言えば、各都道府県のトップ校なら出身高校としての問題はない。しかし、国公立医学部を目指す傾向が生徒だけでなく教員にも根強くあるので、私大医学部にはめっぽう弱い。浪人は必至である。しかし、部活動などで活躍し、推薦試験を狙う手もある。成績が良ければ国立の推薦プラス一般受験で戦えばいい。
日常の学習で気になることは、経済力に任せて塾や家庭教師をぎっしり詰めている生徒を見かけるが、たくさん与えればいいわけでない。20年以上受験生の指導に当たってきた私が個人的に思うのは、成功の秘訣は、本人はもちろん、家族の持続力である。そろばんでも公文式でも地元の個人塾でも、ある一定のレベルがあれば、の条件付きだが、長く続ければ相当の効果がある。学力はともかく、単調な学習に耐える精神力がつくし、マンネリ化を防ぐために教える側も教わる側も工夫を強いられる。続けることがお互いに信頼関係を作る。いい人間関係が存在するとそれを壊すことを恐れるし、維持するために忍耐や要領を覚える。 逆に、問題があればすぐに止めたり交換したりすると、塾や講師のあら探しが主眼になり、止める口実を探すことにエネルギーが費やされてしまう。しかも、子どもの目から見て、塾や講師は単なる道具になってしまう。実際に高校生のナマの声として、「うちの家庭教師は使えないから、今度東大の医学部の学生に替えようと思っている」など、師に対する尊敬や畏怖の念など遠い昔のおとぎ話か。とにかくよく吟味して選んだら、後は黙って1~2年は続けるべきである。中学でも高校でも、受験学年になって問題があれば再考すればいい。また、家庭でも、時々親の気まぐれで単語のテストや書き取りなど始める場合があるだろう が、やること自体は実に結構。しかし、これも長く続かなければ逆効果だ。親の持続力のなさは子どもに言い訳の材料を提供するし、そもそも親が持続失敗してしまっては子どもにできるわけなどない。一度やると決めたら、何があっても1年続ける覚悟で臨んで欲しい。軽いノリで勉強に付き合ってしまうのは予想以上に悪影響を及ぼすのだ。どれほど疲れていようと、行事があろうと、毎日一定時間机に向かって静かにノートを開き、自分の力で学習する。地味ではあるが自学自習の精神を鍛えることで、将来医師となる資質もつけられよう。子どもの学習環境は物理的・空間的なものだけでなく、精神的な環境整備が重要なのである。
筆者紹介
七沢英文(ななさわ・ひでふみ)
中央大学法学部卒 塾講師、家庭教師などを経験。
1997年より医学部受験専門予備校YMS講師、現在YMS取締役兼同機関誌「Lattice」編集長。
NPO法人「ジャパンハート」理事。
趣味:オートバイ、車、写真、映画鑑賞、麻雀、料理、旅行など (しかし、現在まったくできない状況、泣!)
※記事提供元:女性医局『七沢塾~カリスマ講師直伝連載コラム~』「子弟を医学部に行かせる方法はあるのか?」 (コラムの閲覧には会員登録が必要)