私が卒業した昭和59年頃、外科に女性はほとんどおらず、入局に際しても男性医師からの抵抗がありました。「男の世界に無神経に踏み込んでくる」「どうせ育てても結婚だ、出産だとすぐに辞めてしまうから、本気で教える気はない」「女が来ると当直室や更衣室が必要だ、夜勤が嫌だなどと、気を使わなければならないから迷惑だ」などと言われたものです。また外科は急患、急変が多く、勤務時間も長く、帰宅時間も不規則で女性が家庭と両立しながら勤務するのは容易ではありません。
一方、乳腺外科は患者さんの急変や急患が少なく、手術時間も短く手術後の管理も容易です。また受診者は同性である女性医師の診察を希望するという特徴があります。さらに近年、乳腺外科は患者さんの増加が著しく、手術件数も増加し、従来の一般外科から独立する傾向にあります。
従来、外科医は10年修行して1人前と言われておりました。
主な研修の場である大学病院や市中の大病院では、まずは消化器や一般外科を取得した上でその後、乳腺の診断治療も修得するというのが一般的です。しかし肝臓切除やすい臓癌の手術を習得していなくとも、乳がんの手術には関係ありません。むしろ最初から乳腺外科に特化した修練を行うことで比較的短期間で専門技術を習得し、家庭との両立も可能な勤務が出来ます。特にチーム医療を推進する乳腺外科は時間を融通しあって女性が勤務するには最適です。
乳腺外科の特徴は、外科手技的には3年もあれば一人前になれます。後は経験を積むだけです。極端な場合、研修途中で、結婚、出産しやむを得ず家庭にリタイアーした医師でも、全く初心者の外科医から始められるのが乳腺外科の良いところです。むしろ大学病院や大病院よりも乳腺に特化した中小病院のほうが、手術症例や経験の積み重ねには有利です。
私の勤務する病院では現在、医師、看護師だけでなく、薬剤師、体験者コーデイネーターやリンパ浮腫ケアースタッフをチームに組み込んだ乳腺センターを建築中です。チーム医療を充実して、一時医療現場から離れて、すぐには第一線に復帰の困難な女性医師や手技に不安のある医師にも専門医が一緒に診療にあたることで習熟していけるようにしたいと思っています。また、院長の考えにより子育て支援としてお子様が小学校を卒業するまでは、遠足や父兄会、参観日など学校行事出席は学会参加と同様に公式行事として扱い、子供のお迎えや介護で必要な場合は午後の早い時間の帰宅も可能とすることも計画しております。子育てが終わりましたら、次に子育て中の女性医師の応援に回ります。医師不足の今の時代に家庭に埋もれている女性医師を掘り起こすには、大変有効なプロジェクトであると思います。
勤労や勉学意欲のある女性医師が無理せず子育てしながら仕事もでき、プロ集団として質の高い医療を提供できる乳腺センターを作ることができたら将来の日本の医療に大きな改革をもたらすものと考えおります。
先生のご紹介
湘南記念病院 乳腺甲状腺センター長
経歴
横浜市立大学医学部卒業
横浜市立大学医学部付属病院で研修後 済生会横浜市南部病院 独立行政法人国立病院機構横浜医療センターなどを経て現職
一貫して乳腺外科分野で、乳がん治療に乳腺分野での治療に加え女性医師の研修に力を注ぐため、乳腺甲状腺センターを立ち上げる
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