「理系女子最高峰? 私たちのキャリア形成は明るいの?」
M字のきっかけは何だろう
野原先生)
男女雇用機会均等法ができて約40年、今は「子供ができたから辞めなさい」とは言ってはいけないことになっていますよね。でも、自分が辞めますといいたくなるような雰囲気づくりは出来るかな。実際、私の周りにも「子どもができたら当然辞めるよね」という言葉をかけられるところはある・・・。
永井さん)
今でも…? それは、病院のある一部の科に限定されることですか?例えば外科が多いとか?
病院全体の問題?病院自体がそのようなカラ―なのかとかはどうなんでしょう。
野原先生)
“人”だと思うよ。外科系がそうだとか内科系がそうだとかいうことではなく、その科の中に“言う人”がいるということ。
障害となっているのは“人”?
永井さん)
医局全体がそういうカラ―だということでなく、「たまたまその科の上に立つ先生」がそうだということでしょうか?
野原先生)
代々その医局がそうかと言うと、違う人が入ってくると、変わることがあるし。やっぱり“人”って気がするな。
永井さん)
“人”の問題だとけっこう見逃されがちですよね。医療界だけですか?
野原先生)
一般企業ではあるのかなぁ?個人的な話は聞かないからよくわからないけれど。私が産業医をしているようなある規模以上の企業では労務管理がきちんとしているし、管理者もそれなりに教育されている。医療界は遅れている??
永井さん)
今、ポリクリしていて、各科を回っていますけど、科によって全然違います。「この科は30代の先生が全くいないんだ!」ってところもあったりして驚いています。「科ごとのカラ―で変わったりするのかな?」って思っていましたけど。やはり、“人”だったり、その科の上の先生の意向によって変わってくるのですね。対策の方法ってあるものですか?
野原先生)
誰がそう言うかによっても違うかな。言われる方も、例えば入局して2年目で、妊娠、出産になったらかなり厳しい感じ。自分が「何ができます」というものがないから、何も言えなくて、遠慮して終わっちゃう。
永井さん)
女性側が遠慮して終わるんですね。
野原先生)
10年働いた後だと35歳でしょ。その時点で認定医も専門医も全部取っいて、それから産む分には何を言われても平気。すでに○○長クラスになっていたりして(笑)
永井さん)
「私これできるし!」って言えるから強い。
野原先生)
そう。自分が休む分、自分であれこれ手配もできる。30代前半は辞めるしかないからM字が凹む。タイミングがやっぱり厳しいよね。
永井さん)
ちょうど入局して2年目って、世の中的には2回目の結婚ブームといわれているところなので(笑)
ちょっときついですよね…。
野原先生)
いまお嫁に行っときたい!と思うよね(笑)
永井さん)
そうです。でもそこで行っちゃったら、自分のキャリアはどうなる?!みたいな…迷いがあったりする。
現行研修医制度の弊害?
野原先生)
この前、私と同じように医師の勤務環境について研究しているある先生が、「やっぱり1、2年目で休まれると、研修が中途半端になって全然使いものにならなくて駄目だ!とある先生が言っていました。どう思いますか?後で子ども生んだ方がいいですか?」って私に質問したのね。「使いものにできないのは、教育制度が悪いからじゃないですかねっ」ってはっきり言っちゃった(笑)。研修手帳とかをきちんと持っていて「私は○月○日~○月○日までここでこういう研修をして、こんな症例も担当して、ここまでの研修は十分終了している」ということが、研修する側も教育する側も明確にわかっていれば、次の2か月例えば産休とっても、復帰後さくっともとの位置に戻れるじゃない。
永井さん)
画期的ですね!!
野原先生)
全員が規定通りにその期間で全部研修を終了させないといけないってことになると、病気になる人もいるでしょうし。医学部入学前に社会人を経た人なんかで、40歳ぐらいになって医者になっている人はそこからの研修でもよくって、卒後だと、たった1年育休とったら使い物にならないって理由が全然わからない。
永井さん)
はい。全然分からないです。
野原先生)
教育の方法や制度がどんどんよくなって、いつでも本人の状況に応じてそこから研修開始・再開のような考えができれば、「いつ産まなきゃいけない」ということなくできるし、そういう柔軟な対応が取れた方が、後々誰もが良い研修が受けられる。今は、へとへとでも研修を受け続けなければいけない。
永井さん)
復習が追いついてないけれど、もう次のところに行かなくてはいけない。そんな感じです(笑)。
研修医の先生方を見ていて、もう本当に忙しそう。1年目の先生たちって、ちょうど私たち(5年生)もよく知っている方たちで、そんな先輩たちの顔に疲労感がみえて、「学校ではあんな輝いていたのに!」(笑)
野原先生)
「すっぴん、あんななんだね」なんて(笑)
医大生は自分の方向性をどうやって見つけたらいいのか
永井さん)
私も大丈夫かな…って思ってしまうのですけど。研修医制度が変わったことがM字に影響していますか?本当に一番難しい年齢で、二手に分かれる選択をしなければいけないなんていうのは、困ります。
ああ、私ももう差し迫ってきているのか…と思うところがあります。
例えば、今の私だったら、「病院はどこを選ぶか」、「何科を選ぶか」、「何を優先させるか」によって変わってくるし、「バリバリ仕事をしたい」のか、それとも「何かと両立させることを考えているのか」悩むところはあります。東京都内で、再教育センターとか、そこまでいかなかったとしても、女性に対する理解がある病院とかはありますか? 「院内保育園がある」、「育休産休が取りやすい環境」など、そういうところって、けっこうあるものですか?それはどうやって探したらいいのですか?
野原先生)
「自分で見に行く!」というか、それがメインというよりも、「自分が働きたい病院にそれがあるか」というのを見る。いくつか自分が行きたい候補を見つけて、その中でその環境が一番充実している病院を選ぶ。なかったら、「働きたいのですが、こんなものを作ってもらえませんか」って言う。
永井さん)
そんな風にゴネテみる?(笑)
野原先生)
「こんな優秀な私を取らないと、きっとあとで後悔します」って言っちゃえばいい。
永井さん)
アピールするんですね、売り込んでいくんですね(笑)
野原先生)
そう(笑)「今後病院はこういう制度が必要になってきますから、私それ手伝いますよ」と。「気持があります」ってアピールすることが大切。「そういう人はいらないよ」って言われたら、そこはたぶん自分に向いてない。自分がこうしたいと思ったら、そういう話をたくさんすればいい。上の人と、中くらいの人と、入ったばっかりの人と。
永井さん)
それぞれの年代のご意見を聞いてってことですよね。夏休みくらいから、都内で近いところから色々回ってみようと思っています。
野原先生)
すぐ上の先生が「ここはキツイよ、ここは良くないよ」って言っていても、またその上の先生に聞くと楽しくなっていたりとか、逆もあったり。上の人が「みんなを幸せにしたいんだよね」って言っても、下はすごくギスギスしていたりして。トップがわかっていたら、今ちょっとギスギスしていても、いけちゃうこともある。上が固いときびしいかなと思う(笑)仲間がいっぱいいれば大丈夫なこともあるし。まあ入ったらわりと大丈夫だと思うけど。どんな病院でも。
永井さん)
住めば都?
野原先生)
‘都を創る’って感じかな(笑)
永井さん)
例えば病院の規模によって、女性医師が働くことへの妨げになってくるものが違うものですか?
野原先生)
規模だけで違うかな?規模には限らないけど本当に全然、違うよね。女性医師のネットワークというか、メーリングリストがあって、「こんな研修したい」って投げると「是非うちに」みたいなことはあるよね。
永井さん)
どうしたら、そんなネットワークに入れますか?
野原先生)
講演会とかけっこうあるじゃない。良いことをやっている、言っている先生に直接コンタクトを取る。そのうち、「メーリングリスト入ったら?」なんて誘われるよ。
永井さん)
「入ります!」(笑) 動くのみですね。
野原先生)
顔見て話す。
“男性医師の留学”と“女性医師の子育て”ブランクに違いなし
永井さん)
ファミリーサポートの講演会の時に一番印象に残ったのが、「女性の産休、育休時に2年位間空くことをすごく恐れているけれど、男性は2年留学したところで帰国して次の日から普通に病院に出ている」という話が「なるほど」と思いました。
野原先生)
私もあの話は印象深かった。かっこいいと思った。女子医大には子育ても仕事もして教授になられた先生がいらっしゃるでしょ。「子どもを育てる1年間って何事にも代えがたい研修」っておっしゃってるのよ。「自分も成長して帰ってきなさい」って。
永井さん)
「行ってらっしゃい!」みたいなものだと。
子育ては医師として最良の体験
野原先生)
そう。子どもを産んだら、自分以外の人間を24時間観察し続けて、しかも100%頼られ続けている。出産時には自分も産科の患者になり、その後入院者(赤ちゃん)の家族としての立場も経験して。その後の子育ても絶対思い通りにならないことが毎日次から次へと起こる。それをちゃんとこなして、更に仕事しようなんて思う人は「素晴らしい!」でしょ。それを辞めさせるって、どれだけもったいないかって思うの。そのことを周囲に「早く気付かせなければ」って。当事者たちも産休は引け目を感じて「産休・育休取らせていただいた」みたいになって、「自分は休んでいる間何もしてこなかった。」「今の医療が何もわからなくなった」みたいな錯覚におちいるんだけど、それは子育ての“へとへと感”もあるから。更に周りに気を使ってなんて思ったら、「まあいいか、もうちょっと休んじゃおうか」ってなっちゃう。
だけど、周囲が「素敵な人が帰ってくるのよ!」っていう雰囲気になっていたら、「ただいま!」って自分も自信を持てる。復帰後も「子どもが風邪だから帰ります」「家でもニーズが高いので」と言える(笑)
永井さん)
それが言えたらすごい!かっこいい。
野原先生)
出産した人がもっとアピールしたらいいのになって思うのよ。権利を主張するのではなくてね。
永井さん)
講演での先生の言い方では「どうしてそういう風に考えられないの?」でしたよね。是非みんなに伝えたい、一番印象的な言葉だった!
育休明けの休みは、“初年度でたったの23日”
野原先生)
産休・育休ってたった1年。その後1年は風邪をひいて保育園に呼び出されるけど、私が去年実施した調査では、0歳児(入園1年目)のお休みの日数は1年間で23日。看護休暇がお父さんとお母さんで5日ずつ、全部で10日あるし、有給休暇を10日くらいもっていればなんとかなる日数なの。復帰した最初の年でも年間20日しか休まないんだから、毎日びくびくして、「私だけが何かあっても役に立たない人になっちゃう」なんて思わないでほしい。次の年は11日。月に1回に満たない日数で、そんな遠慮する必要ないでしょう。
月に1回くらい二日酔いで役に立たなそうな人っているじゃない (笑)それに比べたら、子どもいる人ってキッチリ帰るために時間内に仕事終わらそうとするから、仕事の効率凄く良いよね。飲みに行くより規則ただしくて健康的な生活習慣だし。
永井さん)
そうですよね。より効率的になることと思われるのに、なんでこう、出産、子育てを目前にしたときに何で悪いことばかりが出てきてしまうような考え方になってきているのでしょうね。
野原先生)
今産んで働いている人があまりにもつらく見えているのがいけないのかな?私たちが夢を与えなきゃいけないね(笑)
永井さん)
せっかく、女性医師の、医学生の数が増えてきて、モチベーションもすごく高くなってきて、子育てだけでガ―ンと下がって、やたらと引っこんでしまうというのはもったいない。
野原先生)
みんな産んで、みんなで育てちゃおうよ、みたいになるといいよね(笑)
永井さん)
交代ごうたいでがんばろう(笑)。
野原先生)
講演会の時の子育て中の先生たちの発表でも、「産休中に論文書きました」という方いたじゃない?私も2人目の時は学位論文の仕上げで、産後休業中に学位の面接に行っていたの。他の仕事ないから自分の仕事ずっとやって。産休明けに学位もらったの。いいでしょ?(笑)
永井さん)
いいです!要は時間の使い方ですよね。
野原先生)
研究をするいい時期かも。研究はもちろん24時間かっちりやらなくちゃいけないのだけど、でも、患者さんのことで呼ばれることはないから、自分で研究できるし、ひとしきり頑張って間で休みをいれるとか、人をうまくつなぎ合わせるとか、やりやすいよね。女子医大では育児中の人に女性研究者支援あるし。
永井さん)
うまく時間を使えば、産休も引け目を感じずに取れるっていうメリットですね。
野原先生)
「ずるい」って思われることもあるよ「休んでその間自分のことをしている」って(笑)
永井さん)
実際働いている先生を見ていて、これをやってまだ論文も書いているかと思うと恐ろしいと思いますけれど。
野原先生)
好きでやっているから。「こんなにやって凄いな」って人は、たいてい好きでやっているんじゃないかな。
永井さん)
先々週、小児外科に行っていたときに、学会に連れて行ってもらって、あるセミナーを聞きました。
「僕は内視鏡を練習して論文を書くことが自分の趣味です」って「僕の楽しいことは“それ”なんです!」と言う先生がいて、「あっこういう人がそういう人種なのか」(笑)自分の目標設定するところがどこかってこともあると思うんですけれど、「私はこの間にこういうことをするってこと」をうまく自分で見つければできるってことですよね。
野原先生)
私は、学生の時に自分がどうなるなんて想像もしていなかったけどね。
永井さん)
えっ、そうですか?
“バブル代表”野原ד暗黒時代代表”永井
野原先生)
だって私バブル時代の女子大生だし、毎日遊んでいて(笑)将来のことなんて考えてなかった。なんとなくみんな楽しそうに働いているし、本当にボンヤリ生きていた。だから、今の学生さんは偉いなって思う。私たちはぼんやりしていたから、「卒業しました。結婚します」なんて突然言い出す人いたりした。(それ私ですが)
永井さん)
「バブルだったころは」、って良く聞きますけど、私たちが生まれた頃はもうバブルは終わっていて、
いい時代をあんまり知らなくて、いい時代をどうイメージしていいかわからなくて。
野原先生)
いや、今の方がいい時代だと思うよ。だって当時みんな馬鹿だったもん(爆笑)今は「これから、こうしていこう」ってものがちゃんとあるんだから。
永井さん)
でも、反面あきらめが大きい部分もあるような気がします。
野原先生)
「悪い時代」を植え付けられすぎている感じがする。
永井さん)
そうです。不景気で、仕事はやりにくくて、医療界は男性社会のままだから女性は働きにくくて、でも仕事にきたら、結婚、出産はあきらめなさいよ。であるとか。“マイナスマイナスマイナスマイナス!”みたいな感じで、「どこによいイメージを持ったらいいんですか?」と思います。
野原先生)
私の頃も「子どもができたら…」みたいなことは言われていて、その頃も「30年前と変わってないわね」って言われていた。だけど、確実に良くなっていると思うのだけど。
永井さん)
そうです。確実に良くなっているはずなのに、変わらないのは女の人の考え方なんじゃないかと。
野原先生)
うーむ。理解してくれない人はやっぱりいるし「なんだか女の子が来て頑張っているね」「でも、いいよ、いいよ、女の子は(必要ない)」って今も言われたりすると、変われない・・・。
永井さん)
それをまたずるく使っちゃうときもありますからね。
野原先生)
だけど、自分の子供が女の子で、将来苦しむと思ったら、最近のお父さんは、女性の環境をちょっと良くしとかなきゃいけない、と考えると思うよ。奥さんには何とも思わなかったけど、“娘は可愛い”(笑)おじい様たちを説得するにもそこが狙い目かな?「お孫さん、優秀な女性医師になられるんじゃないですか~?お孫さんの頃までに是非働きやすい環境を!」とね(笑)
永井さん)
女子医大では、医学生の時に既に「女性医師歓迎ですよ」みたいなムードを常に感じています。学校全体にある「女性医師素晴らしいですよ!働けますよ!」「あなたたちは素晴らしい女性医師になりますから!」という雰囲気の下で育てていただいていて。
野原先生)
そうなのよ!
永井さん)
そうですよね。他大の人ってどうなのでしょうか?100人のうちの数十人くらいが女の子って…国立大学ってそうじゃないですか。
野原先生)
他大でも女性にいいところがあるっていうのは最近知った。だけど、女性の主任教授が何人もいて、病院長も学部長も女性医師というところはないから、そこは全然違うと思う。たったひとり女性の講師の先生や、たったひとりの女性の教授の先生が男女共同参画とか担当しているけれど、大変だと思うよ。なんといっても女子医大は層が厚いからね。学生さんが「結婚します。出産します」って言ってもとりあえず誰も「えっ~」って言わないし。女性だからといって科を考えるってことも、教育の中でないでしょ?
永井さん)
あまり表だって言われたことはないですよ。
野原先生)
学生のころに視野を狭めることはしないね。卒業してからは打ちのめされたりするけれど、学生時代に夢は膨らむ。
永井さん)
そうですね。大丈夫なんじゃないかな?と思う。
野原先生)
「外科いこうかな?」って普通に言えるでしょ。
永井さん)
何かそう甘くないだろうな、とは思いますけど。
野原先生)
でも現実に毎年進む人いるじゃない。外科も内科も激しいところに。だから、女子医大なら行こうと思えばいけるけど。ひとりもそういう先輩がいない大学だったら??結婚しないで頑張っていこう、って思ってもやって行けると思えないよね。
永井さん)
女子医大みたいなムードって言うのはどうやったらできていくのでしょう?
野原先生)
創設者の想いと110年の歴史でしょう。
女性医師支援の優先順位
永井さん)
学生も先生もどれくらいみんなが、こういう女性医師のキャリアについて、もちろん男性医師も含めてどれくらい意識しているのでしょうか?日々の業務に追われてこういうこと考える機会ってあるのかな?
言っても「でも今こうだからしょうがないよ」ってなっているのかな。
野原先生)
他の大学は知らないけど、例えば大学病院の勤務医は、「診療」と「研究」と「教育」というのが課せられた上に例えば“女性医師支援”のようなものに取り組みたいとなると、「運営」みたいなことをやらなくてはいけない。だけど、一番評価されるのは、「研究」「診療」でしょ。臨床医だったら「診療」で、何人患者さんみてどうこう。あとは「研究」も。どんな論文がどんな雑誌に掲載され評価をされたかと。でも、「教育」になるとちょっと評価は難しくて、それを明確に評価してもらえない。大分評価制度はできたけれどもね。「運営」となると・・・やりがいはあっても自分の業績としてはノーカウント。逆に「そんなことばかりやっているね」なんてことも??臨床と教育が忙しくて研究の時間もとれないのにそれ以上はきびしいよね。何とかしたいって思っていても「だれかお願い」ってなる。
永井さん)
優先順位としてはすごく低くなってしまう。
野原先生)
医師の専門職としての業務内容が明確になって、見合った評価がされるといろんな仕事がやりやすくなって進んでいくように思う。女性医師の活用は国としても非常に重要な課題だからね。
永井さん)
そこがなんとかなればいいのに
野原先生)
そうね。もうちょっと時間はかかるね。
永井さん)
もうちょっと…見込みは何年後くらいですか?先ほど、先生が「30年前もそうだった」と言われたというお話しがありましたが、その言葉あっての今じゃないですか。どっかでそのターニングポイントがあるはずで、徐々には変わってきているのでしょうけど、どっかでバシッと変わるポイントってありますか?
野原先生)
今の人は「病院に保育園があるかな?」って思って入るけれど、私たちはそれもなかった。学会で託児ルームがあることも当然になっているしこれだけでもすごい進歩。
永井さん)
じゃあそのころからは前進はしているということですよね
男性医師だってつらいんだ。
野原先生)
そういえば、女子医大にファミリ―サポートをつくったら男性医師からの問い合わせもあったのよ。
永井さん)
男性も?そうなんですね。
野原先生)
自分は仕事が忙しくて育児を手伝えないのでって。
永井さん)
男性の方からそういう問い合わせがあるって嬉しいことですね。
野原先生)
自分が面倒をみるのはあきらめているんだけど、少しでも手伝えれば、という気持ちがあるし、もちろん育児をしたい男性もいっぱいいるけど、それこそ言い出せないでしょ。昔の女性みたく、“子どもがいることを隠す”くらい。「産休ください、育休ください」なんて言ったら「君なにバカなこと言っているの?」って平気で言われるから。「奥さんどういう人?」って言われて(笑)男性も育休がとれるようにしたいよね。今は男性の方が苦しんでいるかもしれない?
永井さん)
なるほど。育児とかに関して
野原先生)
言わないし。
永井さん)
言えないし。
野原先生)
男の子って特に何も言わない。ベラベラしゃべれば良いのに。黙って我慢して過重労働。
永井さん)
ずーっと病院にいるんじゃないかっていう先生、いっぱいいますよね。
野原先生)
私も男性医師と「あれ?子ども生まれたんじゃなかったっけ?」「ああそうなんですよ」「会ってないの?あっという間に小学校いっちゃうよ!」なんて会話をしてるね。だから男性もサポートしますよ、っていうともっと進むかもしれない。
永井さん)
この女性医師の問題、キャリア、就労環境については女性だけじゃなくて、みんながもっと働きやすい環境をという様に変わってもいいような気がしますよね。全体として「今あるものだけで満足」ってことではなくて、それぞれが「もう少しずつ考えよう」という風に進めていけば変わる気がする。それは理想ですよね。
野原先生)
何かが一個ずつ具現化すると、ちょっとやる気になる。最初は妄想なんだけど。「これできたね」ってなっていくとつながる。ひとつも進まないと気持ちも萎えるけど。
何のために医者になるのか?
永井さん)
自分の生活をどこまで守るか、っていうことも大切ですよね。
以前、イギリスの女性医師にインタビューしたときに「患者さんは医師の仕事として自分を理解してくれている」と言っておられて、そういった上で自分の生活も守ることができるし、だからといって患者さんに「時間だから」っていうことではなくて、「気持ちの上ですごくポジティブでいられる。楽観的でいられる」と。自分の生活をどういう風によくしていくか、豊かにしていくかということを、ひとりひとり考えてもいいのではないかと、イギリスでのインタビューで思いました。
野原先生)
日本も高度経済成長期時代に、夫が外で働いて、妻が主婦としていることがステイタスの時代があったようだけれど、時代的にもそれは、ほんの短期間しかなかった。その頃は家を守っている人たちも感謝して、そういう環境が前提で、それが家族の幸せを生んでいた。外で働くお父さんたちも家庭が豊かになるから働いていたと思う。でも今の時代、ここで働いて何が豊かになるのかがわからない。なんだか働かされているって感じだよね。家庭を大事にしながら働けたら、すごく幸せで豊かな気持ちになる。そこをもっと強調しないといけない。「僕はこんな楽しい家庭をもちながら、やりがいのある仕事も持っている」だったらいいけど、奥さんには愛想つかされていて、たぶん定年退職したら帰る家もない(笑)今みんなそんな風に働いているけど、そんなのは今だけじゃないのかな?当時は社員旅行も家族で行くとか、家族の存在をみんなが分かった上で職場があって、忙しくなって家族に申し訳ないってわかっていたけれど、今はそれを考えちゃいけないみたいになっているよね。
たかだか何十年の歴史だからそれは変えられるのではないかと思う。最近の人たちは当然疑問を持っていて「家族との時間って大切じゃないですか」、「仕事に忙殺されるって不思議ですよね」って言っている。
永井さん)
そうです。何のために働いているのだろう?と思う。もちろん、キャリアのためとか、患者さんのためというのは絶対的にありきの話として、ですが。それだったら「自分じゃなくてもいいんじゃないの?という気がするんですよね。自分じゃなきゃ駄目なところがどっかにあってもいいのではないかと。それが家庭であるかもしれないし、自分の存在する場所っていうのがもっとあってもいいのではないかと。先生たちの疲労感をみているとなんだかもうほんとに…。
野原先生)
医者は「医者になりたい!」って思ってなる人が多いでしょ。やる気もあって医者になっているから「働かされている」って気持ちはそんなに持たない人も多い。私自身は家庭があるから、家庭が充実していたら仕事はもっとやりたいってなる。だから、残業できる日がすごく嬉しい。たぶん先生方も、「今日は絶対患者さんを診て残りたいっ」て、自分の意志での残りたい日が何日もあるけど、ただ毎日残らされているとその気持ちもなくなるじゃない。家庭生活も満足できていると納得して仕事に打ち込める。そんな状況で病院に遅くまで残っている人は楽しくやれているのだと思う。
患者の親の立場になって学ぶコミュニケーション術
永井さん)
先ほど先生が「子育ては24時間ずっと子どもを見てなきゃいけないから医師として最良の体験」って仰っているのを聞いて思ったことです。最近“医師と患者のコミュニケーション”というものが問題になっていますけれど、子育ての経験はそういうものにもかかわってくるのかなと思ったりしました。
野原先生)
もう上手になるよ。できるようになる。
永井さん)
医療関係者ではない方と医療の話をするときに、「医師と患者さんのコミュニケーション不足」の話を会って早々おっしゃる方がいるんですけど、一体どこでどうしてそんなこと思われるのでしょうか?行かれている病院の10分で済んでしまう外来とか、そういう印象が強いのだろうな。実際のところ、本当に一瞬でも深く患者さんに関わる先生もおられるじゃないですか?じゃあそこの違いって何なのだろう?時間の長さ云々はあると思うけど、その人への接し方だと思う。子育ての経験であるとか、自分ととても近しいものへの態度とかが診療に影響してくるのかな、と思ったりして。
野原先生)
本当にそのとおりです。患者さんに「何日に来てください」と言って、「その日は無理かな」と患者さんが答えたとして、「自分の体だからちゃんとしなさいよ」と言う先生いるけれど、患者さんだっていろんな調整をつけてきているのに、そこに配慮ができるのか、は重要。
永井さん)
一般人として共感できるというのもコミュニケーションしやすくするひとつなのかな。
永井さん)
女性医師の特性として、自分のお腹を大きくして経験できるというのは大きなことのひとつだなと思う。凹んでしまった30代の女性医師の方々が戻ってくるというチャンスがあるという前提で…そうか、戻ってこられないからどういう風にするかという方策を立てるのか、ですよね。
野原先生)
今は「戻る」というか、「どういう働き方ができるか」っていうところだよね。一線でバリバリやる人が戻れるかどうか。
永井さん)
難しいですよね、そこのところ。
目指せ!クルム伊達?
野原先生)
でも、“クルム伊達”はどう?(笑)15年ぶりにウィンブルドン1勝上げたよね。そういうのを見ると、あんな厳しい世界でも一線に返り咲けるとしたら、普通の仕事で、子ども生んだくらいで戻れないってことはないんじゃないかって、体力もあんまり関係ないし。ママさんランナーとかヤワラちゃんとか、すごい人たくさんいるよね。別に体に問題ないし、頭だって子ども生んだとたん突如何も覚えられなくなるわけじゃない(笑)だから医者だって普通にバリバリ働く方に戻れる。戻りたかったらね。じゃあ、今何が問題なのかな?どこでも良ければ、 “ちょっとしたアルバイト”って働き口はある。女性医師の“子育ても楽しんで、自分も大事にして”という形が、医師としての働き方のちょっと別のところにある感じ。
永井さん)
けっこうその方向に今流れている気がします。
野原先生)
そうね。でもその意味ではそんな人元々たくさんいるから。
永井さん)
パートでちょっと。ていう感覚
野原先生)
だから「女性医師増えても困るね」なんてことになるのかな。
永井さん)
“働く場所を分けられている”みたいなことになると、一線で働いている医師は男性になるから、また入局するときにもギャップが生じて、また辞めてみたいなことになる。
野原先生)
うまく使えるところにだけ女性医師が配置される。底辺を支えるじゃないけど、都合よく使う人として、女性医師を持っている感じ。全然ラインには乗らない場所。いつも産休明けの人はそこに置かれる。それがやりたい人はいいけど。「残してあげるけどそんな役目ね」、となったりしてはね、夢がない?
永井さん)
それは今後の課題と言うか、制度が整ってきつつあるから余計問題ですね。
女性医師は7掛けの存在か?
野原先生)
整えるときにそこはいつも気にしていないと同じような2番手医師を量産する。“女性は0.7人前の医師として計算される。
永井さん)
そもそも戦力外だねっていう感覚ですね。そこに対してはそんな対策があると思いますか?
野原先生)
どうしようね(笑)トップに女性がいないところでは難しいでしょう。見たこともない人に自分がならないといけないから。“ロールモデル”ってすごく必要だと思うよ。まあみんな女子医大に研修に来ればいいのかな(笑)
永井さん)
どちらかというと男性にきていただきたいですよね。男性に「女性医師の使い方見学」ってテーマで来ていただきたいです。
野原先生)
「こんなにたくさん女性医師がいるのか!」って(笑)
永井さん)
女子医大は医局って言っても女性の先生ばっかりですものね。しかも大体女子医出身。
野原先生)
出張行ってみたら男性医師しかいない!と驚く。でも大事にされることあるけどね(笑)
永井さん)
具体的に今動いている対策ってありますか?
野原先生)
女性医師支援をしているけど、まだまだ難しいね。
診療報酬とか、医療制度がバーンと変わって、何百人も医者を雇えるようになったら、全く変わると思う。患者何人に対して医者ひとりのように、看護師さんみたいな制度で雇ったら、診療報酬プラスアルファ付きますよ、とかね。
そうなったら現状の医療制度は崩壊するらしいけど。医者が本当に労働者ってなったらどうなるかわからないけど、現実的に病院が本格的に変わるというのはその辺の制度に関わってくるよね。法律ができたら、いきなり変わるし。
私たちのキャリア構想
永井さん)
野原先生が考える全体像として、女性医師キャリア支援、復職支援をすべて含めての対策をスタートからゴールまで考えたらどうなるかを教えてください。
野原先生)
私は今、大学の教員としてここにいて、自分ができると思うことは「教育」。政治家だったら法律をだしてそれを変えようとか。厚生労働省に勤めていたら別のことをやるけど。医者を育てる立場としては、医者になる人たちの考えがとっても重要と思うわけ。まわりの環境が良くなっても、それをどういう風に感じるか、とか。どうそれを生かせるかはその人にかかっているいから。もっと学部教育でキャリアを教育することが大切。キャリア教育は「あるけどない。あるけど弱い。」女子医大はある方かもしれないけれど。今、職業教育とか小さいころからされるけど、特に専門職になる人たちに自分がどういう風になっていくというのを教育するのが必要じゃないかな。頑張り続けろ!ということだけじゃなく、いろんな道があるよっとかもね。
医療にもデザインを!
永井さん)
私も医療のデザイナーが入ったらどうなるか、というプロジェクトに参加させてもらって、もっとこういうことを考える場が学校にあればいいのに、とすごく思います。
野原先生)
夢を語る会!
永井さん)
永久中立な立場でものだけ言う、そんな場が欲しいです。
野原先生)
怒られない環境でね(笑)。座談会。面白そう。
永井さん)
私も今年しかないから。来年の今頃にはあの図書室で勉強している先輩みたくなっているのか、と思うと 色々なことやれるのは今年だけ。
野原先生)
今年の学祭でどう?デザイナーの話は面白いな。
永井さん)
『メディカルデザインアワード』ってコンテストがありました。“医療をデザインしよう”っていう企画で、医療器具もそうですし、医療環境もそうですが、その中にデザイナーがはいったらどうなるかのコンテストで優勝したのは麻酔科の先生、過去に在学中に夜間にデザイン学校に通っていたという変わった経歴の方でしたが、コミュニケーションの話もいろんな興味深い角度があって…。
野原先生)
そうよね、病院の環境改善も導線変えただけで、すごいコミュニケーションがよくなるし、 物理的環境だってとっても重要。
永井さん)
デザイナーの方たちも「いや、医療界はちょっと」って思っているようですけれど…(笑)
野原先生)
私たちだってきれいなお洒落な病院で働きたいよね。
永井さん)
佐賀の救急を担当されている先生が医局の方々と「これは面白い」となって「僕の医局と僕の部屋を改造してください」とデザイナーさんにお願いしたところ「それだけで変わりました!!」っておっしゃっていました。白衣とかも「女性医師でございます!」って感じですけど、普通の30、40代の女性ですから、普通にデザインのこと考えたっていいのではないかと思います。
野原先生)
私たち制服はちゃんと中学校の時に着ていましたから!だよね(笑)そう言えば、最近の学生さんみんな綺麗だよね。
永井さん)
たまに病棟で地味にしている先生もおられますけど、たいがいみなさん綺麗にされています。
野原先生)
キラッキラ!の人もいるよね。「それ重くないですか?」って聞いてみたいような(笑)
永井さん)
公衆衛生学で「こういうのは駄目です」って教わったような方もたまに…。
野原先生)
まあ、患者さんがどんな基準で不快に思われるかを考えると「綺麗でイキイキした先生で良かった」と 思われた方がいいもんね。
永井さん)
皮膚科に行ったときに、「こんな綺麗な先生に診ていただいて幸せです」っておしゃっていた患者さんがいました。
野原先生)
れは絶対正しい。私は父を美人女医のところにしか紹介しない。「先生のとこに行くには、ちゃんと治しておかないと」って思うじゃない?私たちだってイケメンの方がいいもんね(笑)
M字カーブの要因ってホントは何だろう?
永井さん)
女性医局の掲げる【+6%Project】では、M字カーブを描く背景が「制度」「社会」「性差」「個人」何が原因なのか、というような観点をあげていますが、先ほど先生が「キャリア教育」の必要性、とおしゃっていましたがこちらに関してもう少し伺えますか?
野原先生)
海外でM字を描いていないのに、日本だけが特に顕著ってことをみると、“男が外で働いて”という役割分担意識が本当に根強いと考えます。
永井さん)
公衆衛生の授業で、レポートを出した時に、キャリア形成を妨げる要因として「夫の理解」というものを出しました。先生が先ほどおっしゃいましたが、他の国でそうはなっていなくて、なんで日本でだけ?となったときに、自分が働いていくことをイメージしていくと、支えてくれる、一緒にいるパートナーの理解というものが大事ではないか、という結論にみんなでいたったのですが、こちらに関してはどうでしょう?
野原先生)
女子医大の学生さんには『3割の法則』*というものがあって、「私、結婚できるかな?」ということを低学年の頃から意識していて、こちらが何もいわなくても考えていて、「じゃあ誰と結婚できるかな?」というのはすごくみんな意識していますね。何だろうあの代々伝わっている法則は(笑)なので、相手はちゃんと理解している人でないと駄目なんだろうな、というのは、強いよね。確かにパートナーの考え方は大切だと思う。
永井さん)
そうすると、現在女子医科大学で、女性医師になるための教育をされているのですが、男性医師を教育する現場で「君たちは男女肩を並べて勉強しているけれど、2人そろって医者になった後で結婚しても『君はお家にいてね』って絶対言うなよ」と男性に言うような教育って有得るのでしょうか?
野原先生)
男性の教育をしているところを見たことがないのですけど、男性医師の結婚式に行くと必ず、「この人と結婚したら、奥さんもう諦めてください。この人はもう家には帰らないと思って下さい。お家の方はお願いします。」という上司の挨拶が一般的です。
永井さん)
う~ん。そうなんですね~。
野原先生)
でもね、女子医大の先生が女性医師の主賓として行ったら、「あなたが結婚した女性はあなたと同じ医師で、あなたと同じように働くので、どうぞ奥さんが働けるように環境をつくってください」って言うんですよ。会場がシーンってなりますよ(笑)。「うまくいくのかなぁ」って居合わせた全員が思う(笑)
永井さん)
なんだか、一気に現実味を帯びてきました…。女性医師のキャリア形成についてはまだまだ課題があるということですね。今日は長い時間本当にありがとうございました。
野原理子先生プロフィール
- 1994, 3
- 東京女子医科大学卒業
- 1994, 5
- 医師免許取得
- 1994, 4
- 東京女子医科大学病院麻酔科 研修医
- 1994,10
- 東京女子医科大学衛生学公衆衛生学(一)教室 助手
- 1995,11
- 結婚
- 1996, 1
- 藤田保健衛生大学付属坂文種報徳会病院産婦人科 研究員
- 1996,9
- 第一子出産
- 1997, 6
- 東京女子医科大学衛生学公衆衛生学(一)教室 助手
- 1999, 9
- 認定産業医取得
- 2001,10
- 第二子出産
- 2001,12
- 博士(医学)学位取得
- 2005, 4
- 東京女子医科大学付属女性生涯健康センター(兼務)
- 2007, 1
- aKey Center for Women's Health in Society WHO Collaborating Center in Women's Health School of Population Health University of Melbourne Visiting researcher
- 2007,12
- 東京女子医科大学衛生学公衆衛生学(一)教室 助教
- 2009, 8
- 日本産業衛生学会専門医取得
- 2010, 3
- 労働衛生コンサルタント(保健衛生)試験合格
- 2010, 4
- 東京女子医科大学衛生学公衆衛生学(一)教室 准講師
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